美学思考
近年、「イノベーションには、実際に生活を営む人の当事者視点が欠かせない」との認識が広まっており、それを可能とする代表的な手法として「デザイン思考(Design Thinking)」が提唱されています。しかし、こうした試みにもかかわらず、依然として多くの企業が表層的な課題設定に陥り、イノベーションを生み出せないケースが少なくありません。ポニポニはこの状況を、「観察する対象を生活者に広げても、観察者の思考の枠組みが変わっていないため、インサイト(気づき)が既存の枠組みに収まってしまう」と捉えています。そして、それを乗り越える新たな手法として「美学思考(Aesthetic Thinking)」を提案したいと思っています。
ポニポニは、地域で起きている現象に対して、例えば「不登校は為政者が登校を前提とすることによって生み出した状況であり問題ではない。問題は子どもたちの学ぶ権利が侵害されていることにある」「介護予防の改善率が低いのは高齢者の予防意識が十分でないことが原因ではない。高齢者の潜在的な意欲や能力を引き出すことより、できないことを補完する(ケアする)ことを重視する仕組みが問題なのだ」という理解枠組みの転換を試みてきました。このときに私たちが行なっている思考方法を美学が培ってきた思考法(反省的判断)を参照して整理したのが「美学思考」です。ポイントは、デザインする者が自らの感性(実感)に開かれることで当事者としてのユーザー(生活者)に共感することを可能にし、そこで得た「違和感」を自らの感性と既存の思考枠組みとのズレとして捉え、それを手がかりに思考枠組みを転換しながら驚くべきインサイトにたどり着いていくというところにあります。これは、多くの企業(社員)が行なっている感性を通して得られたものを既存の枠組みのなかに位置付ける「規定的判断」とは異なるものと言えるはずです。
「美学思考」は、自分自身が社会の当事者であることを支える思考方法でもあります。また、多様化し、複雑化する社会を単線的な論理で理解した気になるのではなく、多様で複雑なものとしてあるがままに受け入れ、そこに自分なりの意味を見出し、互いが得た意味の違いを一緒に乗り越えていく方法論でもあります。私たちは、この方法論をブラッシュアップし、企業だけではなく、多くの人たちと共有していきたいと思います。