アイデンティティ・リフレーミング
不可思議なしくみの「わたし」
高齢、障害分野等を視野に入れ、あらゆる課題に統合的に取り組むにあたり、「理性的で自律的なあり方」という(近代的)人間観の転換が一つの主題となる。このことは、自律した個人の社会における属性や役割を核とする一般的なアイデンティティ概念とも強く接続しており、その概念の捉え直しも不可避だと考えられる。一方で、地域での具体的な実践から見えてきた「安心できる環境のなかで対話すると、その人の社会的な役割が解除されると同時に本人の内に何かしら(能動性が)温まる状況が起こる」ことは自己アイデンティティではなく、むしろ自我アイデンティティの存在(働き)を示唆し、また「市営住宅の移転に伴う引越しで起こるリロケーションダメージ」は、住居など環境がアイデンティティの重要な構成要素であることを示唆していた。それらに特徴的に表れているのは、人のアイデンティティが、役割や属性、人との関係だけに閉じておらず、より豊かな位相に開かれたかたちで成り立っていることであり、この気づきが、福祉、住まいのみならず、教育や産業を再検討し、「存在論的な不安」が広がる地域社会を新たなものへとアップデートする鍵になると考えられる。そこで、これら実践における現象や気づきについて「そこで何が起きていて、どう整理し、実践に活用できる理論となりうるのか」という観点から、アイデンティティ概念を捉え直すべく、有識者との対話を通して、多角的に検討し、より理論的に深めることを目指し、一連の対話企画を実施した。
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NTT研究所