ポニポニピープル Dialogue 004 大庭早子
(3/6)「分解工事」というコンセプト
菊地玄摩 コンセプトになるまでは、どれくらいの期間なんでしょうか?
大庭早子 たぶん1ヶ月ちょっとですね。
菊地玄摩 かなり早いですね。
大庭早子
色んな話をしながら、追い込まれていました。笑
例えばブラジル原住民には食人文化があって、食べることによって知識を得られると思っていた、という話。ただ食事として人の肉を食べたいのではなくて、食べることによって自分の知識としての血肉にする。自分からこの場所に来ることで知識を得る、この建物から少しずつ得て、それを自分の血肉にするという話とか。
色んな雑談をしながら、建築の表現として、穴を開けるとか、壊しながら使うというアイディアが出てきたんですね。通常の改修工事だったら20年30年くらい残るようなものを設計すると思うんですけど、数年後には建物が解体されるっていうタイムリミットが条件として大きかったんです。変に色々ペタペタ仕上げてしまうと、結局短時間で使ってすぐ捨てることになってしまうから、基本は剥がす、壊す。「壊した風」のリノベーションの手法はあるけど、本当に数年後解体されるから、最後に一気に解体するのではなく、解体を意識して早めにちょっとずつ始めちゃいました、はリアルで面白いなと思いました。
基本引き算で、と考えているときに、ポニポニの「湯リイカ」にも登場していた藤原辰史さんの「分解する」ことって面白いなと思ったので「分解工事」というネーミングが出てきたんですね。「新築工事」「改修工事」「解体工事」というよくある工事名の3つに対して、「改修工事」と「解体工事」の間を「分解工事」と名付けましょうというキーワードを出したのは大きかったかも知れません。
藤原辰史さんの存在があり、ポニポニの皆さんが実際に対話している相手でもあり、「分解」というキーワードを本気で取り込めそうな物件だという気付きがありました。
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大庭早子
「分解する」ってどんなことだろうと考えた時に、主役が変わっていく感じがするから、植物はちゃんと入れたいなと思いました。建物には穴を開けたり、剥がして、できるだけ素材を露わにしました。最近、解体工事のときに、分別解体が難しくなってきてるので、できるだけ分別解体ができるように素材がはっきり分かれている物だけを使っています。新たに作るとしてもそういうものを選択するし、ある程度ディテールを単純にしてどういう素材でどう組み合わさっているのかわかるようにする、工事の途中の状態で使っていくというのが、いいんじゃないかと思いました。
「分解工事」というネーミングをしたことは大きかったです。
菊地玄摩 そのころ僕は伝え聞く状況でしたが、大喜びの原口さんからそのコンセプトが伝わってきたのを覚えてます。とてもいいコンセプトだなと思いました。
大庭早子 これまでの仕事では、言葉からスタートするというのは、あまりやってきていなかったです。住まいに関しては、外に向けた誌面発表などのタイミングで コンセプトを書くことはありますが、住宅のクライアントの暮らしに対して強いコンセプトの提示は求められていないと思っていたので...。
菊地玄摩 たしかにコンセプトの中に住みたい人って中々いないでしょうね。笑
大庭早子
そうですね。逆にそういうことはやらないでください、アートじゃないんで、みたいなことを言われてしまうと思っていて。笑
「この言葉をキーワードにしていきましょう」というのを明快にできたのも、やっぱり住宅ではなく、具体的な要望がなかったからこそですよね。今からやろうとしていることは「分解工事」だね、とか、みんなで目指すべきところを対話する中で出た言葉です。みなさん、なんでも肯定しちゃう、認めちゃう。ずっと議論も活動もしているんだけど常に考えて喋って、ずっと転がっていく感じは合ってるねっていう話をしたと思います。
菊地玄摩 「分解工事」というコンセプトに到達するときに、許可を取ったり、予算の問題などを含めて、できそうだという裏を取っていく必要がありますよね。
大庭早子
そうですね。法規が成り立っていないとなると、大牟田の一番目につくところで違法建築をやったということになってしまうので、そういう裏取りや、分解工事をするための色んなことをコーディネートしました。
今回は植物が重要だと思ったので、植物が専門のランドスケープデザイナーをやってくれる人にお願いしました。カーテンはできるだけ工場とか工事用のラフに使えそうなものにしてくださいとか、照明も埋め込みではなく、工事用や解体工事に使える仮設的な吊るすものにして、次の拠点にも持って行けるようにしましょう、とか。
骨組みと法的なところ、棚のちょっとした図面などは最初にばーっと書くけど、あとはそれを目標に関わる人たちを連れてくるという感じでした。
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菊地玄摩 なるほど。数年でなくなってしまうビルだからこそ「終わり方をデザイン」する、というのはすごく面白いですね。
大庭早子 そうですね。ゆっくり壊すデザインみたいな感じだったので、これが建築家の仕事かどうかはわからないですね。笑
菊地玄摩 合法的に、構造として破綻しないくらいに分解が続き、最終的にちゃんと終わるためのコントロールですね。
大庭早子 解体工事まで見守りたいです。
菊地玄摩 終わった時に真価が発揮されるはずのものが色々仕込んであるところが、すごいですね。
大庭早子 このアイデアが出たのは、追い込まれたからだと思います。短時間で皆さんの思想を理解し、体現する、都市に晒されている場所に立っているから失敗できない…初めて尽くしでした。プレッシャーがなかったら綺麗に改修して終わっちゃっていたかもしれない。
菊地玄摩 にんげんフェスティバルが12月の頭にあって、それを境に忙しさのピークを越えた感じでしょうか。
大庭早子
そうですね。1階と3階をにんげんフェスティバルで使うので、2階を残して先に1階と3階をやって、イベントが終わってから2階を設えていく感じでした。
工事も段階的にして、2022年9月に始まって天井を撤去し、12月までの4ヶ月で残りをある程度やり終えましたね。
菊地玄摩 そこまでがうずうずマイン第1期と言えそうですね。
大庭早子 そうですね。