ポニポニピープル Dialogue 004 大庭早子
(4/6)自分がどう答えたか

菊地玄摩 第1期がひと段落した時、どんな感じでしたか?
大庭早子
にんげんフェスティバルの開催中に照明が灯ると、外から見たときに夜間工事中かな?という感じが面白いなと思いました。あと、天井の剥げたところが見えたり。意外と夜の風景が良かった。
1階もぶち抜いたもののどう使われているか、という感じだったんですけど、期間中は1階にもお客さんが来てくれて、12月なので寒さ問題はありましたけど、またそれをヒントに今後の2階の設え方だったり、1階と3階をもっとこうした方が良いね、というのが見えてきた気がします。
工期が分かれてくれたおかげで1回引いて考えてこれをまたやろう、また少し工事して、1回引いてこれをまたやろう、ということができるのも面白いプロセスでしたね。使ってみたから分かることが結構あるので。
菊地玄摩 寒さ問題というのは、冬に穴から冷気が入ってきて、2階のコワーキングスペースが寒かったということですか?
大庭早子
そうそう。笑
寒かったので、仮設的に、3階の床に空いている穴を透明のアクリル板で塞ぎましたし、1階には防寒用の厚手のカーテンを設置しました。
それから、Coデザ(地域創生Coデザイン研究所)が入居している部分のセキュリティですね。事務のスペースをできるだけ隠しつつ、どう2階を活動しやすいようにできるか、というところです。

菊地玄摩 わざわざ開放した後でセキュリティの話をしていくのは面白いですね。
大庭早子 そうですね。あそこにやっぱりセコムさんとか入れないといけなくて。
菊地玄摩 セコムさんびっくりしませんでした?
大庭早子
はい。笑
こんな状態で守ってくれというのは、大変な要望だなと。
菊地玄摩 守りたいのか、開放したいのかはっきりしてください、と思われますね。笑
大庭早子
その後、大牟田にお住まいの方と話をしていて、「私、まだあの駅前に新しくできたカフェ行けてないんだよね!」と言われて「あそこカフェじゃないです笑」となって。そういうことを言われたりはしましたね。
工事途中も、植物を置いてたりしているせいか、「何ができるんですか?」というのはよく聞かれました。
菊地玄摩 イベントの時に照明が入っていると、すごくキラキラして見えました。シェードがなくて剥き出しの光源がそのまま見えてくるからですかね。遠目に目線を遮るものがない印象で、建物として不思議な存在感があるなと思います。
大庭早子 そうですね。良い立地にあるのと、お隣の4階建で建物と同じ高さで、お隣はそこに4層入っていて、こっちは3層しか入ってない。この階高のゆったり感というのも、外から見た時にせせこましい感じがしないというのがありますね。改修する前の、元々の建物のポテンシャルも高いと思います。
菊地玄摩 建物のキャラクターが確立して、だんだん落ち着いていきましたね。
大庭早子
そうですね。ちょうど最初の議論を皆さんとした時に、ポニポニが市営住宅と関わっていますという話があって、私の大学の恩師がアジアン・コモンズや多世代シェアなど、そういう研究もされてるから面白いですよと、本を紹介したんです。すると、すぐに原口さんが読んでくれて、私経由ではなく直接連絡して、恩師をにんげんフェスティバルに登壇者として呼んでいました。笑
九州で仕事をしてると、東京の恩師に設計した建物を見てもらうことはなかなかできないので、嬉しかったですね。自分が関わった建物で恩師が講演をしてくれるという、良い機会を与えてもらったと思います。住宅だとなかなかそういう機会はないし、東京の先生たちに九州にわざわざ来て見てもらう機会は本当にないので、それは、この建物をやって嬉しかったエピソードですね。
菊地玄摩 ポニポニとプロジェクトをやって、それ以外の大庭さんの仕事に何か影響はありましたか?
大庭早子
建築家や設計者としてよりも、人として同志を見つけた感じがしました。ちゃんと話せるというか、こういう価値観で、社会の中でどこか疑問を感じながら生きてきた人たちというんですかね。自分も生きづらさを感じながら、擬態しながら生きてきた中で、オブラートに包まず素直に話せるクライアントとの関係がすごく面白かったです。
その後の自分の立ち振る舞いも変わって、クライアントに対してもっと素直であろうと思うようになったし、合わない人は合わないと認めたり、素直になりました。作るものも素直に作れるようになったので、それを見て依頼してくれる人が増えたからなのか、クライアントとの会話ややり方が楽になりました。建築の作り方というよりは、自分の心の持ちようとか、人との接し方とか、精神的なところで影響を受けていると思います。それは、みなさんと会話したことによって変わってきたと思います。それに住宅でも明確な目標となるキーワードをうずうずマイン以降クライアントと共有して進めるように変わりました。
このような特殊物件はなかなかないし、同じポニポニのメンバーとやったとしても同じような作り方は二度とできないし、全く別のものができると思います。でも、分解工事を続けていきたいという気持ちはあります。
ここまで体現できないとしても、分別解体とか、どういう風に建物が終わっていくのかというところに興味があります。今までは新築に関わることが多かったこともあり、完成までの過程で携わってきたけど、作ったものがどう終わっていくか、どう変わっていってどう寄り添えるか、というところを意識しやすくなりました。
たまたま知り合いが更新設計をやっているけど、作って終わりではなく作った後も相談を受けて、何かあれば相談に乗れる関係性を続けていくのは、口で言うほど簡単ではないんですが、意識しやすくなりましたね。新築でも改築でも、分解工事の時に意識したことは残っているかな。
菊地玄摩 ポニポニと出会った頃は、クライアントワーク的な仕事のあり方と、水害で困っている人を助けることの間で悩んでいたというお話をされていましたが、その構図は、今どうですか?
大庭早子 どっちでも良かったというか。
菊地玄摩 解消された感じがありますか。
大庭早子
それもありだし、これもありみたいな。社会に求められていることに応えた結果は、それは全部自分の答え。それがデザインかどうかというより、常にデザインを考えている自分がどう答えたかということだから、それもありかと。デザインしなくても、私の答えの一つだから。
どこかで自分のスタイルを作らなければいけないんじゃないか、という意識があったけど、自分のスタイルという分かりやすさを求めなくなったし、ブラジルで得たマインドを、みなさんのおかげで取り戻せたように感じます。