ポニポニピープル Dialogue 006 椎原春一
(5/8)伝記好きの少年
菊地玄摩 椎原さんが動物園の世界に入る前の時期について伺えますか?
椎原春一 鹿児島の田舎で生まれました。伝記ものを読むのが好きでした。
菊地玄摩 どんな伝記を読みましたか。生物学者とかでしょうか?
椎原春一 いいえ、広くなんでも。こういう生活の人生を送った人がいるんだなと。あと民話やSFも好きでしたね。
菊地玄摩 そういう本はご実家にたくさんあったのですか?
椎原春一 図書館で借りたり、お小遣いをもらって買ったり。中学生の時は本を買って読んでいました。なんでこういう風になったかというと…今は少ないみたいなんですけど、高校で倫理を習いましたか?
菊地玄摩 倫理の授業、あったような気がします。
椎原春一 今、倫理の教科がある高校ってすごく少ないんですよ。
菊地玄摩 そうなんですか。
椎原春一 受験科目にないからどんどん減らされてるみたいで、ネットで見ると教科書としては販売されているから、残ってはいるんでしょうけど。小学校6年か、中学校1年の頃に、姉が高校生だったんですけど、本に飢えてたので、お古の教科書をもらって読んでいたんです。そうするといきなり倫理の教科書があって、感動しました。面白かったです。世の中をこんな風に捉える人がいるんだと。私の中でSFの延長上なんですよ。SFはいろんな世界観があるじゃないですか。同じ世界を生きて、こんな変なことを考えている人がいるんだと思いましたね。
菊地玄摩 倫理の教科書がSFのように読まれていたんですね笑。
椎原春一 ショーペンハウエルとか面白いなと。ちょうど同時期ぐらいに、ヘルマンヘッセとか、コロナの時に売れたペストを書いたカミュを読んでました。
菊地玄摩 動物や生物の方面へ進むときに、そういった経験は関係していますか。
椎原春一
関係しますよね。特に動物園でいうと、日本には法律にもなっている動物愛護という思想があるんですけど、これは日本固有のものなんです。ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアにはアニマルウェルフェア(動物福祉)というものと、動物倫理という考え方があるんですけど。このあたりの違いを説明する時に、倫理を学んでいない学生に功利主義がどうのこうの言ったところで、通じないんですよね。動物に権利があるという考え方を説明するには、まず権利が何かを説明しないといけない。動物を飼育する技術だけじゃなくて、その背景としてもっと広く基本的なものを読む必要があるんです。
動物園自体は帝国主義時代の仕組みで、植民地の動物を連れてきて、これだけエキゾチックな世界を支配してるんだという支配力を見せるためのものだったのですが、そこから動物学が生まれて、動物学のための動物園になっていきました。20世紀の中ごろには、ひたすら野生から取ってきた反省で、繁殖していかなきゃいけないとなって。今では、自給自足しながらなおかつ生息地の保全にも関わっていかなきゃいけない。だけど、よく考えれば、100年前はひたすら生息地から搾取してきてるんだよなという。動物園で働く人がいるとしたら、そういうところも知っていて欲しいなと思います。
菊地玄摩 面白がって読んでいた倫理の教科書が、動物園の仕事と出会って、今の椎原さんを作っているという感じがします。
椎原春一 そうですね。そういうことを考えるのは好きだったので。好きだからこそ、考えていると苦しくなる時もありますけど笑。こんなことをする意味は何なんだろうとか、頭からそういう考えが消えることはないので、どんな仕事でも出てくると思います。
菊地玄摩 自然と考えてしまう感じですね。
椎原春一 考えてしまったら、もっと詳しく知りたいなと。
菊地玄摩 倫理やSFへの関心がありつつ、どのように今の道に進まれるようになったのでしょう?
椎原春一 私は将来どうなるのかというのを、ずっと考えてなかったんですよ笑。自分の将来についてあまり何も固まらない人間だったんで。
菊地玄摩 固まらない、というのはどんな感じなのでしょう。
椎原春一 固まったとしても、頑張れない人間なんですよ。自分で言うのも何なんですけども笑。面白いなと思うと、若い時だったら徹夜でやっていても何の苦にもならないんですけど、面白いと思わないと何もできないんです。できないと思うと一層できなくなっていくタイプで。高校も面白いと思う教科はそれなりに良い成績なんですけど、何で勉強しないといけないんだろうとなると、全然だめなんですよ。なんとか単位をぎりぎりで取っていく感じです。なんでやらないのと言われても、できないんですよね笑。
菊地玄摩 頑張りを自分に強制できない。
椎原春一 そうなんですよ。甘いって言われます笑。だけど、なんとかこの年まで人生を生きてこれました。みんなから「生きていけないよ」とか言われてきましたけど笑。