ポニポニピープル Dialogue 006 椎原春一

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椎原園長へ

菊地玄摩 福岡の「海の中道海浜公園 動物の森」のあとに、鹿児島の動物園に移られたんですね?

椎原春一 父親が事故で死んでしまうということがあって。母親を1人にしとくのもなと思って、鹿児島にとりあえず帰ろうと。

菊地玄摩 お母様と暮らすために。

椎原春一 鹿児島の指宿にある民間動物園へ希望を出しました。で、95年にWindowsが出てきて、インターネットが広がったじゃないですか。インターネットで、海外の動物園や動物福祉など色んな情報を調べようと思えば、今ほどは入ってこないけど、これを世の中に広げたいとやってる人たちは、サイトを作り上げていました。そういうサイトを隅々まで見て、リンクも全部飛んで、検索して3、4ページ目ぐらいは面白そうなサイトないかなと飛んでいたりすると、海外のアニマルウェルフェアは全然違うぜと思いました。
私は、41歳で園長になったのですけど、何で園長になったのかというと、前任の方たちが経営者と意見が合わず、それで辞めていって、次の人もまた合わなくてを繰り返していって。上がいなくなってじゃあ誰が、でしょうがなく園長になりました。

菊地玄摩 95年にインターネットで海外の様子を調べている時は、どんな役職でしたか。

椎原春一 その時は平の飼育員でした。

菊地玄摩 その後図らずも園長になったのは?

椎原春一 2000年〜2002年ぐらいですね。

菊地玄摩 そのあいだの時期にパソコンを買われて、インターネットを仕入れて、海外の事情を調べたのですね。

椎原春一 そうですね。パソコンを買いに行って。あの頃は性能悪いのに、高かったですよね笑。

菊地玄摩 すごく高い時代でしたよね。飼育の現場をやりながらですよね?

椎原春一 そうですね。夜、帰ってからですね。無理をしていたというよりは、興味があるとするんですよ笑。

菊地玄摩 インターネットに興味があったんですね。

椎原春一 そうそう笑。そのうちに、自分の園も公式サイトを作ろうということになって。私が作りましょうということで、園でも堂々とパソコンをいじる時間が作れました笑。

菊地玄摩 インターネットがアツい時代でしたね。飛躍しますが、その情報発信の感じは、大牟田市動物園の景色にも現れているように感じました。情報が動物たちと同時に目に入ってくるというか。

椎原春一 大学の時に、児童文化研究会というサークルがあって。入学式の時に部員募集のチラシが配られるじゃないですか。そのサークルに入るつもりではなかったのですが、チラシに好きな少女漫画家のイラストが描いてあって。気が合いそうな人がいるかもと思って行ったら、入っちゃったという。人形劇をやるサークルで、表現することや、演劇も面白いなと思いました。

菊地玄摩 セリフを言いながら、人形を動かすことをされていたんですか?

椎原春一 そうそう。セリフを言いながら動かしていました。それをやっていて思ったのが、人形が動いていると、すごく感じるものがあるというところ。動物のショーもしていたのでそれとも関わってくるのですが、動物福祉的に考えると、動物を無理やり動かすのも違うよなと感じて。それで色んなトレーニングを調べたりして、こういうことを一般の人にわかりやすく伝えるとなったら、今からこれを始めますよ、今こんな感じですよ、完成しましたよ、というプロセス自体を発信するのが一番見ている人に伝わるのではないかと思ったんです。
今もそうですけど、終わった後の完成したものしかメディアでは割と発信されないじゃないですか。こういう問題があって、こういうのをやろうと思います、みんな見ててね、ここまで出来ました、完成しました、応援ありがとう…という発信の仕方という意味では、今の大牟田市動物園と同じパターンです。

菊地玄摩 なるほど、プロセスを見せるんですね。

椎原春一 発信していくということ。プロセスを見てもらうことで、自分たちの考えているコンセプトとかそういうものを感じてもらう。

菊地玄摩 それも大学でチラシを受け取るという偶然の出会いから始まっているんですね。
伝記もそうですが、その人から見える世界や、その人固有のストーリーに興味を持ち続けられてるんだなと思いました。動物たちの置かれてる状況についてもそういう目線や、視線があるのかなと思います。

椎原春一 納得してもらえるかどうかは別として、動物の姿を見られないなら見られない理由をちゃんと伝えておきたいなと。1つ1つの例じゃなくて、その例が全部繋がって大牟田市動物園。コンセプトとしての「動物福祉を伝える動物園」をいつもくっつけて出しています。合わない人はもう来なくなっちゃうんですけどね笑。

菊地玄摩 そうなんですか。

椎原春一 地元の常連の人は、うちの園はこんな園なんだなと理解してくれていますが、大牟田市動物園に行きたいではなく、動物園に行きたいと思って、たまたま大牟田市動物園に来られた人は、やっぱり珍しい動物が見たい、動物に食べ物をあげたい、抱っこしたい、というような理由で来られていて、がっかりされる場合もあります。

菊地玄摩 そういうニーズを満たすサービスを求めて来園すると、噛み合わないことはあるのかも知れないですね。

椎原春一 私としては、動物園の動物たちの生活を見ることで、自分たちの生活を見つめ直してもらいたいなと思っています。ただ、人間の場合は何が人間らしいのかということは漠然としていますよね。野生の動物の生活は動物学者がきちんとフィールドで調べているけど、人間なんて千差万別だし、文化が違えば生活リズムが違って、宗教が違えば食べ物まで変わってきますからね。

菊地玄摩 大牟田市動物園に行ったときには、動物たちの暮らしにお邪魔する感じがあって、ずっと続いてる時間の中にいっとき、たまたま訪問する感覚がありました。

椎原春一 ありがたいです。お邪魔する感覚というのは目指したいと思っていました。

菊地玄摩 大牟田市動物園を訪れると、自分も生き物のひとつとして、自分は何なんだろうと考えさせられます。動物たちの暮らしぶりを見るにつけ、人間のことも考えてしまう空間ですね。

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