ポニポニピープル Dialogue 008 猿渡春香
(2/8)どうすれば「安心して徘徊」できる?
菊地玄摩 「安心して徘徊できるまち 大牟田」は有名で、私も大牟田と関わるときの入り口として印象的でした。配車のお仕事は、徘徊と隣り合わせで、行方不明になることも事故になってしまうことも起こり得る場所に関わるお仕事です。
猿渡春香 私は「安心して徘徊できるまち」というスローガンには反対なんです。なぜかと言うと、私たちのような第一線にいる人たちはいろいろ経験します。うちも一度だけ、高齢者施設からご依頼いただいて、タクシーを出して送っていったことがあって。ご高齢の女性の方が1人で乗られて、送り先が海沿いだったんですよ。
菊地玄摩 はい。
猿渡春香
2月でものすごく寒い中、人通りも少ないのにと思いながら運転手さんが車内で話しかけると、「お友達と待ち合わせをしてる」と言うけど、本当だろうかと気になる。最後に「本当にお友達来られますか」と聞いたら、ちょうど1台後ろから車が来て。それを見た女性が「あ、こらした、こらした」とおっしゃるので、「あ、ごめんなさい、私の勘違いだった」と女性を降ろしたんです。認知症はずっとわからないわけではないし、人それぞれ症状が違う。受け答えがその時はしっかりしてたんですよね。
でもやっぱり気になるということで、5分ぐらい経って本社に連絡がありました。そのとき女性のことを探している施設から電話が入ったので、すぐに降ろした場所に戻ったのですが間に合わなくて...。これは運転手さんの責任ではないのですが、やはり現場はものすごいショックを受けるんですよ。
菊地玄摩 そうですよね。
猿渡春香 なんとか見守ることができるように、安全な環境をみんなで作ることが目標にならなければいけないと思っています。その受け皿が当たり前だと思うのは違うのではないかということを、私は事業者の立場として主張してきました。
菊地玄摩 なるほど。
猿渡春香 ほんとうに難しくて、ゴールというものは多分ないんですよね。大牟田が完成したパッケージみたいになって、全国から多くの視察を受け入れているのは知っていますが、これが完全形ではないし、大牟田もずっと変化し続けなければいけないんだろうと思います。
菊地玄摩 なるほど。大牟田が注目される街になったことを、キャッチフレーズよりも深いところにあるリアリティや課題を伝えるチャンスにできるといいですね。微力ですが、今みたいなお話がサイトに載ることで少しでも伝えていけたらと思いました。
猿渡春香 ありがとうございます。
菊地玄摩 猿渡さんは現在も現場を続けてらっしゃるんでしょうか?
猿渡春香 今日もさっきまで配車の電話を取っていました。クラウドになっているのでパソコンで電話を取るんですよ。電話がパソコンに転送されるようになっていて、どこにいてもできるようになっています。タクシー会社は運転手さんをメインに採用するので、一般職のほうが少ないんです。だから私も、タクシーを運転する以外は何でもします。
菊地玄摩 クラウドのツールがあっても、運転される方とお客様のニーズをつなぐのは難しい仕事なんですよね。
猿渡春香 何と言うんでしょう…簡単に言うと、みんなと合う人っていないですよね。
菊地玄摩 そうですね。
猿渡春香 お客様側も、運転手さん側もお互いに、この人とはちょっとなあ、という気持ちの問題があります。特にお1人で乗られた場合は、運転手さんと車内で完全に2人じゃないですか。運転手さんは運転もしなきゃいけないし、接客もしなきゃいけないし、日報も書いたり、お金を受け取ったりしなければいけない。運転手さんの仕事がバスと比べたりするとサービス業寄りになっていくんですよね。
菊地玄摩 なるほど。
猿渡春香 以前、トラック経験者の人に「荷物が喋る」と言われたことがありました 笑
菊地玄摩 うん、うん 笑
猿渡春香 だから「合わない」と言われて。荷物を運ぶという考えだと、そうなってしまいますよね。ある程度想定はできるのですが、こっちも人、相手も人なので、ものすごく気は遣います。
菊地玄摩 過去に乗ったタクシーの運転手さんたちのさまざまな個性を思い出しました。荷物になりたいときもあるかも知れないですね 笑
猿渡春香 そうそう。何も喋らない方もいらっしゃるんですよね。そういう方の場合は「この人と合わない」ということはまずないですよね。もう喋らないんだから。
菊地玄摩 そうですね。
猿渡春香 タクシーの乗り方は人によって違います。例えば、タクシーを呼んだのにいつまでも出てこずに待たせるのは、どこの運転手さんでも一番嫌うことだと思います。どんなに気が長い人でも「ずっと待つ」ことはできないので。そういうお客様に対しては、「これ以上待たなければいけないなら、車を1回引き上げます」と言わなければならず、なかなか難しいです。